2009.05.31 東京10R 東京優駿 ダービー G1

By admin On 5月 30th, 2009

 「最悪の展開になってしまいました。短い距離で逃げるなら折り合いがつくんですけどね。これで見ていた人も分かると思いますが、長い距離は向かないです」これは、皐月賞直後の武豊がリーチザクラウンの惨敗について語ったとされた発言である。これに違和感を感じたのは筆者一人ではなかったに違いない。

 2000mの距離のレースに出走したことがそもそも間違っているのではないかとも取れる、馬の起用法にまで踏み込んだ内容に、勝っても負けても発言だけは完璧にクレバーにこたえる武豊らしさはない。しかし、先日このコメントについて「誤りではないか」との指摘を受けたため、取材者に確かめた結果、「短い距離で」という部分は、「単騎で」(1頭単独で先頭に立つこと)という武騎手の発言を聞き間違えたということがわかり、さらに「長い距離は向かないです」という箇所は、武騎手が発言していないにもかかわらず、取材者が推測で付け足したことも判明した。

 レースから1ヵ月以上経って、しかもダービー間際のこの時期に事実が判明したことに、些か胡散臭さも感じるが、訂正された内容自体には納得はできる。

 もともとリーチの調教師橋口氏は「先行馬よりも差し追い込み馬の方が断然好き」と公言して憚らない人物。その兆候は快勝したきさらぎ賞の勝利インタビューでも見受けられる。「結局逃げて勝ちましたが、今回のメンバーでは仕方がない。」「逃げてG1を制した馬が今までどれだけ多くいると思うのですか」とここでも発言内容は、豊らしくはない。つまり、逃げて快勝してみせたレース後の勝利ジョッキーが口にする言葉としては、かなりいい訳じみた内容に感じられるのだ。

 曲解すれば、武豊としては、リーチザクラウンの現時点の戦法は、逃げがベターだが、調教師の手前と、自らの不調が重なり皐月賞では中途半端な騎乗しかできなかった。というのが本音なのだろう。

 要はリーチについては、ここに至り漸く、武豊らしい競馬に徹することができる御膳立ては整ったということだ。「今回は思い切って乗るだけ」とダービーへの意気込みを口にした武豊にとって、このレースの戦略としては最早高速ラップの逃げしかない。今回のリーチの人気は単勝4番手あたり。これならダービーのプレッシャーはかなり軽減されるだろう。人気でも戦法でも迷いがない方が上手くいく確率は高まる。ケレン味ない逃げ戦法は諸刃の剣だが、肉を切らせて骨を断つのが勝負の鉄則。リーチが逃げるのならば、ゴール間際の勝ち負けレベルまでギリギリ踏ん張れるのではないかと見た。

 しかし、予想はここでは終わらない。実は武豊はここまで中央のG1を61勝もしているが、逃げきって勝ったケースは一度もないのだ。これは驚くべき事実である。快速の愛馬サイレンススズカでそのジンクスを打ち破るかと思われたが、レース途中の壮絶なる事故で、スズカともども夢は、府中のターフに散っている。

 そう見ると、きらさぎ賞後の武豊の「逃げてG1を制した馬は数多くいる」旨の発言は自分への問いかけだったのかも知れない。逃げ、先行は勝つ為のベターな手段だが、G1レベルの究極の勝負では、前の馬を捉えるといった馬の本能が、刹那の運を手繰り寄せるのものなのかも知れない。

 おそらく今年のダービーもそうなるだろう。ゴール間際ギリギリの攻防。勿論ここ10年以上圧倒的な成績を納めている1番人気の18アンライバルドは、その戦いに加わってくるのは間違いない。

 しかし、それ以外にも有力馬は多く、オッズ程能力の差異が際立っているとは思えない。ならば、展開が結果に大きく影響を与えるのは必然である。その意味で、本気で狙ってみたいのは高速で逃げると思われる12リーチザクラウンを間近でマークできるであろう馬達。9ジョーカプチーノと10アントニオバローズである。

 ともにマンハッタンカフェ産駒であるにも関わらず、マイルの重賞を制しているのも因縁めいている。この予想が無理筋だったのかどうかは結果からは明白に断定できる。しかし結果が出るまでは、今年もなかなか楽しめそうなダービーになるのは間違いない事実なのである。

 レース結果

 回顧録

 このレース、結局高速で逃げたのは9ジョーカプチーノの方だった。12リーチザクラウンは離れた2番手を進み、10アントニオバローズは4番手あたりの12をマークする予想通りの位置取りでレースは流れた。

 直線に向く頃には9ジョーカプチーノの脚は完全に上がり、代わって先頭に立ったのは12リーチザクラウン。ここから12リーチザクラウンも踏ん張ったが、それを内から余裕で交わし去ったのが、皐月賞で一敗地にまみれた1ロジユニヴァースだった。

 今回は不良馬場に助けられた面もあったが、やはり皐月賞1番人気の実力は本物。今年のダービーで1ロジユニヴァースは見事な復活劇を遂げた。

 12リーチザクラウンもかなり良い競馬はできたが、勝ち馬に比べるとまだまだ成長途上の馬。完成度を求められる春のクラッシックでは少し足りなかったということだろう。しかし、才能だけでここまで走れるのだから、やはり末恐ろしい馬という評価は揺るがない。

 期待した10アントニアバローズは12リーチに頭分だけ叶わず、3着に敗れたが内容としては上々だった。人気はなかったが今回の条件なら十分やれると踏んだ通り。皐月賞の1、2番人気馬との組み合わせの3連単馬券の配当が20万円馬券なら予想の方向としては及第点は付けられる。

 18アンライバルドは結局12着。1番人気馬としては大敗だが、今回のレースは18にとって勝てる条件ではなかった。今後もそうだろうが、ロジユニヴァースが勝つようなレースでは、アンライバルドが大敗するケースも多く見受けられるだろう。それはアンライバルドが向く条件とロジユニヴァースが向くレース条件は全く異なるということである。つまり、「両雄並び立たず」とは、競馬の世界でも十分通用する名言ということなのである。